福岡高等裁判所 昭和27年(う)1559号 判決 1952年9月16日
控訴人 被告人 丸田直喜 外三名
弁護人 林達也
検察官 白土八郎関与
主文
被告人丸田直喜の本件控訴を棄却する。
原判決のうち、被告人田中敏行、同久澄幸男、同上田濃に関する部分を破棄する。
被告人田中敏行を懲役八月に、被告人久澄幸男、同上田濃の両名を各懲役四月に処する。
但し、被告人田中敏行、同久澄幸男、同上田濃の三名に対し、この裁判確定の日からいずれも三年間右各刑の執行を猶予する。
当審の国選弁護人に支給した控訴費用は、被告人丸田直喜、同久澄幸男両名の負担とし、原審における訴訟費用のうち証人秋吉享に支給した分は、被告人田中敏行、同上田濃両名の負担とし、国選弁護人加藤虎之丞に支給した分は被告人久澄幸男の負担とする。
理由
弁護人林達也(被告人丸田直喜、同久澄幸男関係)、弁護人堤牧太(被告人田中敏行、同上田濃関係)の控訴趣意は、被告人丸田直喜並びに弁護人林達也、同安東吉郎提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これを全部ここに引用する。
右に対する判断。
(一)被告人丸田直喜、並びに被告人に関する弁護人林達也の控訴趣意のうち、
(イ)事実誤認の点について。
被告人丸田直喜に対する原判決摘示の事実殊に原判示第一の(一)各自転車が賍物であることの情を同被告人において察知していた事実は、原判決の挙示引用にかかる関係部分の証拠によつてこれを認定するのに十分であり、証拠の取捨に関する原審裁判官の措置証拠の証明力に関する原審裁判官の判断に、経験法則の違背等特に不合理とすべき事由なく、原判決に所論のような事実誤認の違法があるものとは認められない。
(ロ)量刑不当の点について。
記録並びに原審において取調べた証拠に現われている諸般の犯情に照らし、被告人丸田直喜に対する原判決の刑の量定は相当であると認められ、特にこれを不相当とすべき事情なく、所論の諸点を参酌考量しても、なお原判決の刑の量定が相当でないものとは断じ難い。
その他原判決を破棄すべき事由がないので、刑訴第三九六条により被告人丸田直喜の本件控訴は、これを棄却すべきものとする。
(二)被告人田中敏行、同上田濃に関する弁護人安東吉郎提出の控訴趣意書のうち、
(イ)事実誤認の点について。
被告人田中敏行に関する原判示第二麻薬譲渡の事実は、原判決挙示の関係証拠によつてこれを認定するのに十分である。麻薬取締法において、法定の事由ある場合を除き、麻薬の授受を禁止するゆえんのものは、国民保健その他の国家的要請に基ずき麻薬が国民一般の間に任意に転輾譲渡せられることを禁遏しようとする趣旨にほかならないのであるから、いやしくも麻薬の所持者において、麻薬処分の権限を相手方に授与する意思をもつて現実にこれを交付する以上、たとえ、その対価取得の可能性について錯誤があり、約定の対価を取得することができない結果が発生したとしても、麻薬取締法第三条第五七条第一項所定の麻薬譲渡の罪の成立には、何らの消長を及ぼすものでないと解すべきである。
論旨は、原判示玉井文人は、当初より対価支払の意思がなく、被告人田中敏行との間に有効な売買契約が成立していないので、従つて、同被告人に麻薬譲渡の事実を認める余地がないものであるというのに帰着するのであるが、原判決は、原判示玉井文人に対価支払の意思がなかつた事実を認定しないのみならず、仮りに、同人に対価支払の意思がなかつたとしても、原判決挙示の証拠によれば、被告人田中において、処分の権限を授与する意思をもつて本件麻薬を相手方に交付した事実を認めるのに十分であるから同被告人の本件麻薬譲渡の罪の成立に何らの影響はないものというべきであつて、論旨は採用の限りでない。
(二)囮捜査の違法について。
被告人田中敏行、同上田濃らの原判示犯罪が、直接何ら麻薬取締官の囮によつて行われたものでないことは、原判決が特に証拠を挙げて説示するとおりであり、同被告人らの原判示犯罪の刑責を免かれしむべき事由があるものとは認められない。この点に関する論旨も理由がない。
(三)被告人田中敏行、同久澄幸男、同上田濃に関する各量刑不当の点について。
記録並びに原審において取調べた証拠に現われている諸般の犯情に照らし、同被告人らに対しては、いずれも刑の執行猶予の言渡をするのが相当であると認められ、その言渡をしない原判決は刑の量定が相当でないというのほかなく、この点に関する論旨はいずれも理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、刑訴第三九七条第三八一条により原判決のうち、同被告人らに関する部分を破棄し、刑訴第四〇〇条但書に従い、本件について更に判決する。
同被告人らに対する犯罪事実は原判決摘示のとおりであつて、法令の適用は次に示すとおりである。
被告人田中敏行の麻薬譲渡の点につき、麻薬取締法第三条、第五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条(懲役刑選択)、刑法第二五条。被告人久澄幸男、同上田濃の麻薬譲渡幇助の点につき、麻薬取締法第三条、第五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条、刑法第六二条第一項、第六三条、第六八条第三号第四号(懲役刑選択)、刑法第二五条。
なお、被告人丸田直喜、同田中敏行、同上田濃、同久澄幸男の各訴訟費用の負担につき、刑訴第一八一条第一項。
以上の理由により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 筒井能彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)